エジプト神話。伊勢物語を読むの著者宇都木敏郎が綴る徒然話です。世の中は驚きに満ち、日常の全てに興味がそそられます。人生を勉強と追求に掛け、入ってくる知識よりも消えて行く記憶が勝っても尚、その意欲は変わらない。

エジプト神話

1、古代エジプトの神

イ、天体・天空に関する神

「太陽神ラー」この神はたびたびホルス神で表される。また原初の神アトゥムと同一視され、後にはアモン神(起源不明)と重ねてアモン・ラーと呼ばれた。他に火の玉を転がしながら天空を進む巨大なスカラベともみなされた。また太陽の船に乗って東から西の空に進むと考えられていた。

月神ホンスはテーベの地方神としてのみ登場する。病気治療の神でもある。他に天を表す女神ヌト、地を表すゲブ、空気の神シュー、これらはラーの子である。

ロ、動物神

ホルス神(タカまたはハヤブサ)の他に、愛の女神ハトホル(ホルスの家)知恵の神トトはトキで表される。猫の神バステトはデルタ地帯で崇拝された。雄羊の姿の創造の神フヌム、ワニの姿のセベク、メンフィスで崇拝された牝ライオン姿のセクメト、金狼犬といわれる死者の番人アヌビスなどがある。

2、死後の信仰と死者の書

人は死んでも魂は不死であり、あの世で生きる。そのため死者をミイラにする。死者を冥界(オシリス神が支配する)へ到達させるためには儀式を行い、呪文を唱える。これを絵入りで書いたパピルス文書が残っていて、「死者の書」と呼ばれる。中でも有名なのは大英博物館にある、アニという書記の書いたパピルスである。この中に儀式、死者の世界の様子、神々の特徴等が絵とヒエログリフで示されている。

3、伝承された神話

古代エジプト人は神々について文書は残してはいないが、死者の書や他の資料から再現できる。それはギリシア人がヘルモポリス(ナイル川の上流エスネ)、ヘリオポリス(カイロ市の近く)、メンフィス(階段ピラミッドのそば)と呼んだ三つの宗教の中心地で語られたものである。

イ、ヘリオポリスの神話

世界と神々の創造者アトムは男神シュー(空気)と女神テフネト(蒸気)を口から吐き出した。この二神から男神ゲブ(大地)と女神ヌト(天空)が生まれた。二人は抱き合っていたが、シューが引き離し、ヌトは天空高く持ち上げ、ゲブは地上に横たわらせた。彼等の子にオシリス、イシス、ネフテュス、セトが生まれた。この神話に兄妹の結婚による人類の誕生という信仰が見られる。

ロ、メンフィスの神話(ファラオ時代)

地神ゲブは上エジプトをセトに、下エジプトをホルスに与えた。ホルスはゲブにより、後継者となった。オシリスはセトのために沼に溺死させられたが、女神イシスとプテュスは引き上げて復活させる。

ハ、兄弟神の争い

ホルスとセトオシリスの息子ホルスはアトムの所へやって来て、オシリスの跡を継がせてくれるように求める。ヌトとゲブの息子で、オシリスの弟であるセトは自分の権利を主張する。神々の審判はなかなか決まらなかったが、ホルスが認められた時セトは戦いを宣告し、二人は80年に亘って戦いを続けるが、最後に地下のオシリスの審判によって、ホルスが選ばれる。アヌビスとバタの兄弟の物語もある。バタは働き者で彼等の妻はどちらも悪者として描かれている。(ここまで矢島文夫「エジプトの神話」より)

オシリス神話

(Golden Bough Sir James Frazer著 第38章より)

オシリスの神話はギリシアの著述家ブルタルコスによって語られたが、近代に至って碑文によりその証拠が確認され、更に敷衍された。

オシリスは地神セブと太陽神ラーの妻で空の女神ヌトとの間の密通の子であった。一年を 360日として世界が作られ、5日が追加されたが、その第一日にオシリスが生まれた。ヌトはその後二日目にホルス、三日目にセト(チュポン)、四日目に女神イシス、五日目に女神ネプテュスを生んだ。オシリスは支配者となり、イシスと結婚し、平和でよい世が続いた。オシリスはエジプト人に律法を教えた。イシスは大麦と小麦を発見し、オシリスはその穀物・葡萄の栽培法を教えた。エジプトのみならず全世界に文明と農業の祝福を伝えた。彼が与えた福祉のために人類は彼を賛美し、神として礼拝した。しかし弟のセトはこれを妬んで仲間と陰謀を企み、ひそかに兄の身体の大きさを計り、同じ大きさの立派な棺を作った。一同が飲み、かつ楽しんでいるときに棺を持ち込み、ぴたりと合う者にこれを贈ると戯れた。誰も合う者がなく、最後にオシリスが入って横たわった時、謀反人等は躍りかかって蓋を閉め、釘付けした上ナイル河に投げ込んだ。イシスは悲しんで死骸をあちこちと捜し回った後、パピルスの茂る沼地に身を隠した。そして鷹の形で夫の骸の上を飛び回っている時に息子のホルス(二世)を生んだ。棺はナイルを下って海に出てシリアのビビュロスに流れつき、海岸に打ち上げられた。美しいエリカ樹がこれを包み込んで大木となった。この国の王ビブロス王はその美しい木を切り倒して宮殿の柱とした。イシスは神のお告げによってこれを知り、卑しい旅の女に扮してやって来た。王の侍女たちの髪の毛を編んでやり、芳香を吹掛けた。王妃はこれに気づいてイシスを宮殿に招き、子の乳母とした。イシスは頼んで柱を貰い、棺をその中から出した。木の幹は布でくるみ、王に贈ったが、これは今もイシスの神廟の中に立っている。船に載せた棺の蓋を開いたイシスは悲嘆にくれて泣いた。遺骸はホルスのいるブートーに持っていって隠した。

セトはイシスが息子のホルスに会うため留守にした時、猪狩りに行って棺を見付けて開き、遺体を14に切ってあちこちに振り撒いた。イシスは葦の船に乗って探し求め、それらを一つずつ埋葬した。オシリスの墓が多いのはこのためである。その生殖器だけは魚に食われてなくなったが、他のすべてを取り戻したイシスは夫の墓を秘密にし、臘でその像を造り、祭司たちにこれを葬り、神として尊崇するようにした。デンデラ神殿の長い碑文はオシリスの墓の表を保存し、また諸聖所に遺物として秘蔵された身体の諸部分について記録している。しかしその数は驚くほど多い。ホルスはオシリスの魂によって教えられ、セトと戦って敗北させ、鎖で繋いでイシスの所へ連れていった。心やさしいイシスはセトを放してやったので、ホルスはその後二度もセトと戦って完全に打ち破り、神々によってオシリスの後継者となった。

イシスの悲嘆を憐んで、太陽神ラーは豹の顔をしたアヌビス神を遣わし、オシリスの体を繋ぎ合わせ、麻布で包み、死者の儀典を行った。オシリスは蘇り、他界の王として死者を治め、死者の審判を行った。

エジプト人は神々がオシリスの骸に対してなしたことを行えば、死者は他界において永遠に生きられると信じた。最初のミイラがオシリスであった。オシリスが死んでから蘇ったように、すべての人々は同じく死から永遠の生命に蘇ることを願ったのである。